高知家庭裁判所中村支部 平成2年(家)53号 審判
主文
本件申立を却下する。
理由
申立の趣旨及び申立の理由
1 申立の趣旨
申立人の名「勇也」を「湧也」と変更することの許可を求める。
2 申立の理由
申立人の出生時より、「『湧』也」の文字を使用したかったが、『湧』の文字が、人名用漢字として認められていなかったので、止むなく「『勇』也」の名で届出をしたが、本年4月から『湧』の文字が人名用漢字として認められたので、名の変更を申し立てる。
二 当裁判所の判断
名の変更には、変更するにつき「正当な事由」が存することを要する(戸籍法107条の2)のであるが、本件申立の事由、即ち、出生届出当時、当用漢字表にないために子の名として用い得なかった文字が、その後人名用漢字として認められ、子の名に用いるべき文字として扱われることになった事、只それだけの理由では、名の変更につき「正当な事由」があるとはいえず、本件申立は理由がないと解するのが相当である。
蓋し、名は人の社会生活上の自他の便宜と必要から個人に付けられるもので、名付けられた本人のものであると同時に社会のものであり、その変更は、当人側に日常社会生活上変更しなければ具合の悪い事情などがあって、変更の必要が感ぜられ、それが社会からみて納得できるものである場合、即ち「正当な事由」が存する場合に限るべきである処、人名用漢字として認められた事は、それ自体飽く迄その時以後に初めて名を付ける場合や従前の名を変更する場合に、使用して差支えないという使用文字の範囲の拡大を意味するだけであって、人名用漢字として認められた文字を使用し得なかったがために他の文字を用いて付けた名に変更の必要性と正当性を与えるものではなく、又、人名用漢字の改正の結果、改正以後に出生届出をする者は人名用漢字として認められた漢字を名に使用し得られるに反し、従前に届け出た出生者はこれを使用し得ないという差異は生じるが、斯様な事は法規の改変に伴う当然の結果であり、止むを得ないものであるからである(大阪高決昭和27年10月31日家月5巻5号164頁)。
よって、主文のとおり審判する。